石井政之の作業場

石井政之  作家、編集者、ユニークフェイス研究、「ユニークフェイス生活史」プロジェクト、ユニークフェイス・オンライン相談、横浜で月1飲み会。---有料マガジンの登録をお願いいたします

書評 「日本の安心はなぜ消えたのか」





「日本の安心はなぜ消えたのか」を読了。傑作です。



ガ島通信で、この書籍を知りました。感謝です。



社会心理学の書籍を読むのは久しぶりです。かつてユニークフェイス問題の文献を集中的に読んでいたとき、社会心理学的なアプローチを知って、社会と個人の相互関係を論じるためには優れたツールであるということは知っていました。しかし、よくある日本人論の一種かなとも思っていたわけです。きわめて刺激的な内容でした。



私自身は、著者の山岸俊男さんのいう集団主義的な価値観を共有することで作り上げられている「安心社会」からはみ出ている存在です。ユニークフェイス的な属性をもった人間を、日本の共同体は、仲間として受け入れることを容易には許しません。このことについてはユニークフェイス問題のなかでさんざん書いてきましたから繰り返しません。



いま日本社会は、この「安心社会」から「信頼社会」への移行期に直面している、そのために「信頼社会」とは何かという説明に多くの文字数を使っていました。「信頼社会」を簡単にまとめると、不特定多数のなかから、信頼にたる個人や組織を選び、それを信じて協力し合う社会。「安心社会」では、人々は互いを熟知し、もし約束を果たせないときは制裁が加えられる。そのために人々は約束を守ります。しかし、見ず知らずの人ではそうはいきません。その人を信じて、相互に協力し合うためには、契約書を交わすなどの社会的コストが必要となる。このコストをかけても,それを超える利益が得られるように互いに協力していく。こうして、信頼の連鎖が生まれていくなかで、個人のなかにある他者への信頼度が高まっていくというわけです。



いま日本は「安心社会」から「信頼社会」の過渡期にあるため、誰を信じるべきか、という命題に直面しています。信頼を裏切られたとき、日本では「お上」が、制裁を加えるという役割を果たしてきましたが、「安心社会」が壊れているため、制裁にかけるコストがアップしており、民間での紛争処理をしないといけない。しかし、人々の意識は、「安心社会」で培った「空気を読む」という非言語コミュニケーションに偏っている。そんなコミュニケーション混乱時代のなかで、自分が立っている位置を知るための絶好のガイドブック。



私個人は、「信頼社会」のなかでサバイバルするために、もっと他者を信じ、他者への協力を惜しまないとダメだなぁ、と感じましたね。



信頼社会とは、「商人道」の世界でもあるという、記述には、なるほど! と膝を打ちました。お客さまと自分たち。互いの利益のために、商人は働きます。「金儲けよりも大切なことがある」という武士道的なセンスが色濃く残っている私には自己改革を迫る書籍でした。



日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点
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