石井政之の作業場

作家、編集者、ユニークフェイス研究、「ユニークフェイス生活史」プロジェクト、ユニークフェイス・オンライン相談、横浜で月1飲み会

「苦海浄土」 石牟礼道子

読了。何度か古書店で買っては積ん読だった書籍。熊本地震の報道を気にしつつ、水俣が被災地であることから、読んでみようと近所の書店で新刊購入。
 石牟礼道子といえば、物書きの世界では、伝説の文学者である。要介護状態になっても、その発言と動向は注目されている。
 感想としては,声なき声を表現するために、こういう表現形式になったのか、と。まったく無名の新人のデビュー作として読むと、その表現力が卓越している。解説で、渡辺京二氏がこれは私小説だ、と種明かしをしているが、水俣病が社会を揺るがす大事件になった時に、刊行された書籍としては、政治的によまれるしかなかった、とは思う。ノンフィクション作品と思いきや、石牟礼の想像力で書かれた部分が、聞き書き形式でまとまっている。
 興味深いのは、石牟礼は、若いときに精神薄弱と誤解された経験があるということ。そういう気質なのだろう。あわせて、祖母が精神疾患の当事者で、その人の世話をすることで、現実世界と、妄想の世界の両方をのぞき見ることができる感性がはぐくまれたのかもしれない、という点だ。

 

新装版 苦海浄土 (講談社文庫)

新装版 苦海浄土 (講談社文庫)