石井政之の作業場

石井政之  作家、編集者、ユニークフェイス研究、「ユニークフェイス生活史」プロジェクト、ユニークフェイス・オンライン相談、横浜で月1飲み会。---有料マガジンの登録をお願いいたします

極私的フリーライター日報として面白い。 「炎上! 100円ライター始末記」

 フリーライター岩本太郎さんの、単著デビュー作。1964年生まれの著者は、私と同世代である。
 岩手県の地方大学から上京して、新聞広告で知った業界紙を発行する出版社に就職。その後、退社してバックパッカーになって世界放浪の旅へ。帰京して、フリーライターとして独立。ノンフィクションを書くようになる。テーマは広告などのメディア業界、そしてオウム真理教などの社会問題だ。
 インターネットや携帯が普及していなかった時代から、ネット社会が浸透していくなかで、フリーライターという活字を書く職人仕事が変容していく。それを岩本は自身の体験と、時代の変化をあわせて記録している。メディア業界の貴重な証言になっている。 

 腕のいい職人としてのフリーライターになった時期に、活字メディアが衰退し、スマホから情報を入手できることが普通の情報環境になった。この流れについて行けなかった著者は、書き仕事を失う。そして鬱病になり、生活保護で食いつなぐ生活に。その彼を支えたのは、若いときから彼を叱咤激励した業界人だった。本書の刊行につながっていく。
 ブログ記事と書き下ろし原稿からなる本書は、フリーライターの作業日報のように読むことができた。どのように仕事を進めて、どこでトラブルが発生して、どう回避したのか。未解決な問題が山積して、最後は、開店休業状態になっていく。生々しい記述が多くて、一気に読み進めることは難しかった。
 著者は今年、30年ほど住んでいた東京を引き払い地元の静岡県内の地方都市に移住する。これだけの経験値がある人なので、地方でもしたたかに生き抜いていくだろう。

 ひとりの若者がさまざまな経験を経て、中年になっていく。それでも人生は続く。

 

 

炎上! 一〇〇円ライター始末記: マスコミ業界誌裏道渡世 (出版人ライブラリ)

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