『女帝 小池百合子』(石井妙子著 文藝春秋)
日本中のすべてのユニークフェイス当事者に読んでほしい、傑作ノンフィクションだ。
東京都知事、小池百合子には、顔の右頬に赤アザがある。
ユニークフェイス当事者である。
私は、小池には関心がなかった。
ある作家から、小池の顔にアザがあるという話しは聞いていたが、とくに気にしていなかった。
ところが、本書を読んで驚いた。アザは小池の人格形成に大きな影響を与えていた。
その容姿コンプレックスを起爆剤にして、生きている人だった。
孤独とコンプレックスのなかで、ひとなみ外れた上昇志向をもつようになったようだ。
キャリアアップとサバイバルのため、さまざまな人間を利用し、裏切り、嘘をついてきた。
本書は小池の真実をあますことなく調査して、書き込んでいる。
これは一読にあたいする希有な人生である。
小池百合子は、アザのある素顔でつきあえる友人・親族がいなかったから、孤独の中で、自分を見下してきた人間に対する復讐のために生きる、ということを決めたのかもしれない。
同時に、外見を装うことで、この社会を生き抜ける、ということも学んだのだろう。
複雑な自己イメージの人だ。
私は、ながくユニークフェイス問題にかかわって、さまざまな当事者と会ってきたが、小池のように政治の世界に生きる人間には会ったことがない。
小池は、メイクアップでアザを隠し続け、そのことをメディアにほとんど語ることなく、公共の電波で仕事をしてきた。その度胸と覚悟は瞠目に値する。
嘘をつきながらも生き抜いていく。素顔を隠し、作り笑いをして、周囲の信頼を勝ちとる。
困っている市民がいて陳情に来ても、自分に得をするときだけ利用して、利用価値がないと切り捨てていく。
テレビカメラという外部の目がないとき、傲慢な政治家として、人々を見下していく。
社会からの目がないときに、小池は女帝として振る舞うのだ。なんと小さい人間だろう。
私は、本書を読んで、小池を虚無の人だと思った。
注目を浴びることで著名性を武器にサバイバルする。そして自分を見下した、人生の邪魔をした、と見做した人間に、きっちり復讐をして、とどめをさしていく。
誰かのために生きることはしない。自分のサバイバルのために全力をつくす。
笑顔の下にある小池の本当の姿を、おおくの人は、知ることなく、突然、裏切られている。
こんなユニークフェイス当事者が、現代社会に生きていたのか、という驚きの連続の読書体験だった。
いま学歴詐称で、小池の政治生命が危機に陥っている。学歴詐称は、公職選挙法違反であり、へたをすると失職する可能性がある。
都知事選のなかで、小池が何を言うのか、何を言わないのか。
同じアザのある当事者として、小池の一挙手一投足に注目している。