石井政之の作業場

作家、編集者、ユニークフェイス研究、「ユニークフェイス生活史」プロジェクト、ユニークフェイス・オンライン相談、横浜で月1飲み会

少子化問題を概観するために『無子高齢化』(前田正子)を読みました

 少子化のスピードが早いことが気になり、網羅的に少子化の原因を知りたいと思って読んでみた。
「無子高齢化」という刺激的なタイトルと、著者が横浜副市長を経験しており、自治体の現場を知っていること、女性であることから本書を選択した。
 2018年の刊行なので、平成が終わる時期。映画『万引き家族』が話題になった時期の書籍である。当然、新型コロナ危機は発生していない。コロナ以前の「少子化対策の失敗の歴史」をたどることに成功している良書だ。
 就職氷河期に社会にでた団塊ジュニア世代が、正社員になれなかったことで、生活が不安定になり、少子化が促進したことがデータをもとに詳述されている。本書は、重要な事実を、太ゴチックで印刷しているので、手早く要点を理解することができるのがありがたい。
 私にとって発見だったのは、少子化の解決策としての移民の位置づけだった。

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実は1992年、旧労働省産業安定局は『外国人労働者受け入れの現状と社会的費用』で、外国人の受け入れのメリット・デメリットを研究している。

彼らが日本人と同程度の所得を得て働いた場合の納税や社会保険料などの社会的便宜と、同時に生活者として医療や教育を日本人と同じように受け、がいこくじっ向けの通訳サービスや日本語教育などを整備した場合の行政コストの、いわば「入り」と「出」の試算である。

50万人の外国人労働者を受け入れた場合、単身では「入り」の方が多いが、配偶者が来た場合はコストが便益の倍になる。さらに学齢期の子どもが二人いると,教育費や居住対策費が必要になり、扶養家族が増えるにつれ、税収も下がるため、1年でメリットの4.7倍にあたる約1兆4000億円ものコストが発生するという。

 

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 日本政府は、外国人の定住移民の増加を拒否している。国民もそれを批判していない。
 
 著者は、少子化対策のために必要な施策を提案しているが、その実現のためには,政治家の決断、そしてそれを支持する高齢者中心の有権者の政治決断が求められる。
 これまでの少子化失敗の歴史をみるかぎり、実現の可能性は低い。
 国内で子どもが増える可能性は低い。
 移民で子どもを増やす政治決断はしない。
  日本の少子化対策はきわめて悲観的、という分析の書である。
2020年の新型コロナ危機、さらに気象変動による大水害の続発で、国も自治体の予算は枯渇しつつある。
 さらに少子化は進むだろう。著者が指摘するように、それは、子どもがいない=無子、の社会に日本が向かっている。

 

無子高齢化 出生数ゼロの恐怖

無子高齢化 出生数ゼロの恐怖

  • 作者:前田 正子
  • 発売日: 2018/11/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)