『音もなく少女は』(ボストン・テラン)を読了。
ニューヨークのブロンクス。生まれつき聾(ろう・耳が聞こえない)の少女が、実の父親からの虐待されている。イタリア系家族の貧困からこの物語ははじまる。父親は貧しさから抜け出るために、麻薬の密売に手を染める。妻への暴力は年々エスカレートしていく。少女は麻薬の密売の手伝いをさせられる。
ドイツ系移民のフランという中年女性が、少女が手話を学べるように手助けする。少女の運命が動き出す。この物語は、この3人の女性が助け合い、戦う、という構成になっている。主役は聾の少女である。1950年代から約30年にわたる、この3人の生と死がのクロニクル。
麻薬、虐待、DV、女性差別、障害者差別、貧困、そして銃。
アメリカ社会の最底辺のダークサイドの要素を、盛り込んで、このような絶望的な状況で、少女が自立していく。少女を多くの人が支援し、そしてときに、理不尽に殺されていく。
『神は銃弾』が傑作だった。だから、この同じ著者の本書を読んだのだが、物語の流れがかなり異なる。前著では、悪魔崇拝の男が悪として描かれた。善と悪の構図が単純だった。今回は、少女をとりまく環境(貧困、暴力、差別)が重層的に描かれており、ノンフィクション作品のようになっている。
しかし、絶望的な状況にある女性が、自分の運命を切り開くために戦う、という点では共通している。
ハードボイルド小説であり、少女の成長物語。言葉をもたない弱い存在が、手話を通じて言葉を獲得し、くそったれな社会とむきあっていく、その過程が丁寧に描かれていく。
ストーリーはシンプル。描写がすばらしい。読了した後に、印象的な場面を読み返した。