石井政之の作業場

石井政之  作家、編集者、ユニークフェイス研究、「ユニークフェイス生活史」プロジェクト、ユニークフェイス・オンライン相談、横浜で月1飲み会。---有料マガジンの登録をお願いいたします

真空とびひざ蹴り










「真空とびひざ蹴り」(本の雑誌社)を読む。1979年から2001年の出版事情についつてのコラム集である。ぱらぱらめくっていると、西村京太郎問題について言及されていた。複数の版元から十津川警部シリーズを出すことは無節操、というような主旨で批評されていたのである。「本の雑誌」ってなかなかしっかりしている(私が知らなかっただけだろうが)。



 文庫ラッシュについても言及されていた。コラム氏は点数が多いので、回転率が悪いものからどんどん絶版になっているという現状を嘆いていた。ちなみに、講談社は毎月平均24タイトルの文庫を刊行している。1年間で288タイトル。10年間で2880である。これは講談社だけの数字。これに智恵の森文庫(光文社)、新潮文庫、文春文庫、角川文庫・・・と加えるとすごい数字になる。これに加えて、新書の刊行ラッシュも続いている。本が売れないからだ。売れないから廉価版を出して棚を占領して、売上を立てようとしているわけである。文庫って何? 新書って何? ということを考えざるを得ない。



 9月に「顔面バカ一代」が刊行されても、回転率(つまり売れるかどうか)が悪いならば、すぐに書店の店頭から消えて絶版になる。勝負は1ヶ月だろう。



 それにしても「真空とびひざ蹴り」を読んで、改めて出版業界は忙しないと思った。何をそんなに急いでいるのか、と言いたくなる。そして、10年前から書店の労働環境の悪化は変わっていないし、さらに状況が悪くなっていることに暗澹とする。



 最近気になっているのは翻訳者たち。「文筆生活の現場」を読んだ読者のなかには、「貧乏自慢」「気合い自慢」と評した人もいたけれど、翻訳者のほうがその技能を買いたたかれているような気がする。「翻訳生活の現場」についても機会をみて調べてみたい。