石井政之の作業場

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書評「アルビノを生きる」(川名紀美著)---当事者の言葉の記録がなかった、という広くて深い空白を埋める作品

 2013年刊行なので、遅まきながらの書評です。
 アルビノ当事者で研究者の矢吹康夫氏が、単著「私がアルビノについて調べ考えて書いた本――当事者から始める社会学」を発表。読了した後に、書評を書こうと思ってましたが、内容が複雑のため、口直しに、もっと手軽なアルビノについてのノンフィクションを読もうと思って、やっと「アルビノと生きる」を読むことになった次第。
 アルビノという先天性の色素欠乏の当事者と、その家族を取材した作品。そしてアルビノをテーマにした日本初のノンフィクションです。一冊まるごと、アルビノ。こういう本はありませんでした。
 著者の川名氏は、元朝日新聞記者。オーソドックスな取材と執筆で、丹念に、アルビノ当事者を描写しています。アルビノは1-2万人にひとりの割合で生まれる遺伝性の疾患。希少な存在ですが、同書には多くの当事者が登場します。これは、当事者団体がいくつか誕生しており、その関係者を取材することが可能になったからでしょう。
 何人かのキーパーソンが登場します。その一人が、石井更幸さん。千葉在住。その生い立ちをたどっていきます。
 アルビノは、先天性色素欠乏症ということで、外見が白い。皮膚は白く、髪は金髪のような状態です。そこだけが注目されがちですが、弱視という特徴もあります。なので、視覚障害者という側面もあります。事実、同書では、アルビノ当事者たちが、学校で黒板がよく見えないという「バリアー」に直面して困ってしまう、という現実が記述されています。受験でも、弱視というハンディを配慮してもらわないと、試験が読めないなどの問題が起きている。しかし、弱視ですから、本人が「見えないから配慮して欲しい」と説明しないと、教育機関は動かない、という現実。当事者は、こういう「社会のバリアー」に対して、どう対処したのか、また、対処できなかったのか、を取材記者に語っています。
 私が、これまでアルビノについてほとんどフォローしてこなかったのは、外見の違いにみる社会的な苦境だけでなく、視覚障害者という特徴があるので、表現が難しいことと、出会ってきたアルビノ当事者の数が少ないためでした。
 同書では、アルビノ当事者が置かれている状況が、よく整理されているので、とても参考になりました。登場する当事者のジェンダーバランスもいい。当事者を産み育てた親の視点ももれなく書かれています。
 全体を読了して、まず思ったこと。それは情報環境の変化。当事者のセルフヘルプの動きができたひとつのおおきなきっかけは、インターネット環境。ネット環境が整ったとき、情報と当事者同士の出会いを求める動きが加速した。その黎明期には、海外のアルビノ情報(主として英語情報)をキャッチして、発信できる当事者の存在があったこと。このような情報社会のなかに、何人かのアルビノ活動家が生まれた。ひとりは、石井更幸(千葉在住)。もうひとりは藪本舞(関西在住)。東西のアルビノ活動家を軸に、セルフヘルプ活動を展開。その萌芽が報道されて、孤立していた当事者と家族がつながっていく、という好循環が動き出している。

 石井更幸さんが恋愛をする、というところで終わる。ハッピーエンドのノンフィクションという読後感でした。

  しかし、ひとりひとりの個人史はかなりハードです。アルビノの子どもを産んだ母親が親族から受けるバッシング。学校でのイジメはたしかにある(イジメがなく育つ当事者もいます)。就職試験では苦労する(視覚障害者だと分かると、採用担当者の態度が一変して、障害者枠で応募しなおすべき、と言う)。生まれたままの髪の色(金髪)ではダメで黒く染めろ、と周囲からの圧力がある。

 人権という観点からいうと、分かりやすい差別が、しっかり記録されてます。

 講演会で自分の体験を語ると、寝込んでしまうほど疲労する、というアルビノ当事者の発言も。それでも、語らないと、伝わらない。それが当事者運動の辛いところです。当事者による言葉が、この日本ではずっと空白だったのですから。本書は、その長くて深い空白を埋める、ジャーナリズム側からの努力の成果だと思います。やっと、プロのジャーナリストが動いてくれた。動けるだけの環境ができた。

 そして2017年に、アルビノ当事者が2冊の書籍を刊行する。

 ひとつは「アルビノの話をしよう」(石井更幸)。もう一冊は、「私がアルビノについて調べ考えて書いた本――当事者から始める社会学」(矢吹康夫)。

 この3冊が、こんなに短期間で刊行されたことは、奇跡といって良いでしょう。3冊読むことで、私たちは奇跡に立ち会うことができる。

 

アルビノ・ドーナツの会 - albino-doughnuts ページ!

 

日本アルビニズムネットワーク – JAN | 「アルビノのみんなをつなぐ」…日本アルビニズムネットワーク《JAN》は、日本国内のアルビノの方、またはアルビノ当事者のご家族の支援が目的のチームです。

 

アルビノを生きる

アルビノを生きる

 

  

私がアルビノについて調べ考えて書いた本――当事者から始める社会学

私がアルビノについて調べ考えて書いた本――当事者から始める社会学

 
アルビノの話をしよう

アルビノの話をしよう