『月まで三キロ』(伊与原新著・新潮文庫)を読んでいる。
浜松に移住したので、浜松が舞台の小説が読みたくなって手に取った1冊。
表題作「月まで三キロ」。
浜松の個人タクシドライバーが、自殺をしようとしている中年の男と対話する、という短編小説。
浜松駅から、天竜区まで回送で走ってしまう、というのは、個人タクシーだからできる。これは法人タクシーでは無理だろう。個人タクシーの自由さが土台になった、良質なタクシードライバー小説としても楽しめた。
巧みなストーリー展開で、余韻が残るよい小説だった。
「山を刻む」
山と写真がすきな主婦が、登山で出会った火山研究者と学生と会話していくうちに、あたらしい人生を決める、というストーリー。
自分の意見を正直に言わない、自分を押し殺して生きてきた中年女性の、うっくつとした自問自答を読まされている、という描写があった。これはつまらないストーリーかもしれない、と感じたあとに、きれいに場面転換になる。重大な決断の後押しをするのは、偶然の出会い、そして、熱血漢との雑談、というプロセスが必要なのだろう。そんな心境になるよい小説だった。
オススメです。

